地球の裏側にいてもアルコール依存症に巻き込まれている家族の話

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絶対に別居する、と思っていたのですが予想外の出費が続き、
引っ越し費用が貯められず、結局まだ同居しています…。

そう大きくもない家に同居しているので、
彼が家族とスカイプなどで話している内容が
意識しなくても聞こえたりすることがあります。

それで、彼は三週間前にも連続飲酒で一週間欠勤して
アルコールの副作用で精神的にも不安定になって
アイルランドにいるお母さんにビデオ通話したことがあったのですね。

その場には私も居合わせて、会話に参加していました。

彼は「もう無理かもしれない。
自分がアイルランドに本当に帰るかは分からないけど、
もし帰るとなったら母さんが航空券を買って帰国できるようにしてほしい」

と悲壮な顔でお母さんに頼んでいました。

彼のお母さんはいつも子供たちに優しい人達なので、
快諾するだろうなと思いきや無言。

お母さんはとてつもなく険しい表情をしていて、
長い沈黙の後に口を開きました。

「飲みに帰ってくるのなら、ここには帰ってくるな。
もうあんたがここを離れた八年前とは違って、私達は年を取った。
高齢者がコロナウイルスにかかると危ないって知ってるでしょう。
帰ってきても、この小さい家にはあんたが自己隔離できるスペースはないよ。
どこかで自己隔離してもらわないと。
それにこっちは今ロックダウンで仕事を探せないし、
生活保護だって、帰国後一年間は受給資格がない。
帰ってくるかどうかは性急に決めないで、
もう少し時間を取って決めなさい」

すると彼が泣きそうな表情になって、
「俺はただ、いざという時に帰れる場所、
限界になったら帰れる場所があるかどうかが知りたいんだ。
飲むのは友達と会う時だけだから
と言っていました…。

私はそのやり取りを聞きながら、
「『アルコールで何もかも失って母国に帰った時』という仮定でも
まだ飲むつもりなんだなぁ」
と何とも言えない気持ちになりました。

「帰ってくるのはいつでも歓迎する。それは誤解しないで」
と続けてお母さんは言っていたのですが、
彼は感情的になってしまったようで、
「もういい、母さんは俺を愛していないんだ」
と通話を切ってしまいました。

通話を切ってしまった彼にお母さんはメッセージを送ってきて、
「お医者さんにかかって、AAにも行きなさい」と
彼に治療を勧めていました。

依存症者の家族の対応を学んできた私としては、
お母さんの返答は理想的だと思いました。

ここで尻拭いをして助けて世話してあげると、
依存症者が飲み続けられる状況を作ってしまうので。

自分の依存行為の結果や責任は本人に取ってもらう、
というのが家族の対応の鉄則なんです。

「いきなり対応が変わってどうしたんだろう?」
と不思議に思った数日後、
彼のお母さんから私にメールが届いて謎が解けました。

「〇〇(彼の名前)は元気?
先週末の通話以来ずっとオンラインになっていないから…。
私は残酷に見えたかもしれないけど、
本当はコロナで航空券の値段が高騰して
買ってあげられないからああ言うしかなかったの
」と…。

「元気です。素面の時は夜更かししないから、
時差でオンラインになってる時が重ならないだけです。
私は、あなたが残酷とは思いませんでした。
正しい言葉を言ったと思います」と返信すると、
お母さんからは「良かった。何かあったんじゃないかって心配で、
何事もなく過ごしていてほしいと願っていた」
という返事が。

彼のお母さんはこうして深い愛情を持って心配してるのに、
「母さんは俺を愛していないんだ」なんて何でそうなるんだ、
もう、気づけよ!と彼に対して少し呆れる気持ちになりました…。

そして一昨日、彼のお母さんから小包が届きました、

私には手編みのショール、彼には冬物のジャケット。

彼は小包を開封するなり、「ジャケットだ!」と目を輝かせ、
「ちょうど一着欲しかったんだよな~」といそいそと着ていました。

「これは安いジャケットだな。裏地がチクチクする」
と口では文句を言いながらも顔は物凄く笑顔で、
しばらくジャケットを着ていた間ずっとニコニコしていました。

「嫌いな子供にはプレゼントを送らないよ。
お母さんにはちゃんと愛されてるよ」と私が言うと
彼は「そうだね」と少しわだかまりが解れたような表情をしていました。

それにしても…依存症って本当に、
地球の裏側にいる家族までもこうして巻き込む病気なんですね。

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